神威杏次 official blog

【俳優・映画監督・脚本家 カムイキョウジのモノローグ】

僕が『黒猫のタンゴ』をあきらめるまでのお話

【今回、いつにも増して長文ですが、音楽の著作権に関するお話なので、映画や舞台で音楽を使用することのある方にとっては、それなりに面白いかも…です。】

 「これだ!」「これしかない!」

 映画や舞台に係るもろもろの著作権に関して、僕はきっと、普通の人よりは詳しいほうだと思います。

 中でも面倒なのが音楽がらみで、劇中で使用する音楽は、CD音源など巷に出回る音源を使うのはまず考えないほうが良くて、出来る限り、誰にも文句を言われないオリジナル曲を使うべき。

 しかし、今回ばかりは…今度撮る映画のイメージに見事に合致!するのです…『黒ネコのタンゴ』が。この曲を思い出した瞬間、ガッツポーズをしたくらい。

 YouTubeでいろんなバージョンのアレンジを聞きあさっているうちに、すっかり、曲に惚れこんでしまいました。もはやこの曲なしに考えられない!状態。

 よし、JASRACさんに許諾申請だ♪とばかりに行動開始。ところが…。

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①JASRACへの許諾申請

 映画の中で使うといっても、大手製作の劇場公開ではなく、自分たちのカンパニーで作る自主映画。映画は20分の短編で、うち当該楽曲の使用時間は2分程度。普通に考えて、JASRACさんに支払う許諾料もさほど高額にはならないはず。

 JASRACのサイトで試算した使用料は…1100円。安い!素晴らしい!喜んで、申請手続きを進め「申請を受け付けました。確認のうえ、許諾番号を発行します。」的な案内メールが来た。よし!

②原盤作成

 JASRACさんから許可されても、それはあくまで楽曲の使用許可であって、原盤の使用はまったく別の問題。たとえば、CDに入っている誰かさん演奏の音源を使いたい、となったら、JASRACとは別に、原盤の権利を持つレコード会社に連絡をして交渉のうえ、許可を得なければならないのですが、これがまたハードルが高く、大手の作品でないとそもそも許可を出さない方針の会社もあれば、許可が出ても、使用料は最低ラインでも一曲3万円~5万円はする。

 そこまでして使いたい原盤(音源)がある場合は別ですが、そうでなければ、ちょっとバカバカしい。
 なら、最善の策は「JASRACさんに許諾を得た」うえで「自分たちで原盤を作る。」こと。「原盤を作る」というと大仰そうですが、要は、自分たちで演奏した音源をちょこちょこっと録音して使えばいい、という意味。

 さっそく、知り合いのミュージシャンにお願いして「ちょちょっと弾いてください。」「ちゃちゃっと歌ってくれればいいから」と、軽いノリで依頼。「しょーがないな~。カムちゃんの頼みなら…」てなことです。義理です。無理くりです。快く(仕方なく?)やってもらえることに♪

 よし、準備が整ってきたぞ…と、許諾番号が届いたらレコーディングを…とワクワクしていたら…。

③「外国曲」の壁

 使いたい曲が日本の曲でJASRACが管理をしている曲であれば、上記の流れで無事に使用許諾が出たはず。ところが『黒猫のタンゴ』はイタリアの童謡で、原題『Volevo un gatto nero』という外国曲なのですね。JASRACさんから届いたメールは以下の内容。

 「動画に外国曲を収録される場合、基本使用料が指し値(権利元が指定した額)となります。この度ご申請いただいた「黒ネコのタンゴ」は指し値の確認が必要となります。以下の権利元にお問い合わせの上、合意された基本使用料額をお知らせください。」

 ご紹介いただいた権利元にTEL。今回の映画の規模や使用目的などを説明。「まず社内で検討しまして指値を算出します。その後に海外に問い合わせて認可申請を…」と、なんだか大げさな方向に動き出す。

④結論「無理」

 結論。「基本使用料が最低で5万円、その後、YouTubeなどで公開となると(海外から)数百万円の請求が来る可能性がある。」…目が点。

 「えっと、原盤を使わないという事は伝わっていますか?つまり、自分たちで演奏した音源を使うんですが…」「1969年の童謡でも、それくらいするんですね?」「これが日本の曲ならJASRACさん基準なら1000円程度の利用料で済む話なんですけど…」など、ダメ元の交渉を試みるが、一度社内で出た結論は翻らない。ここまでの丁寧な対応に感謝の意を述べて…幕。YouTubeはJASRACと包括契約を交わしているから、大抵の曲は問題ないとも聞いているが、そこは今、主張するとこではない。それ以前の問題。

 権利元会社の担当者の方は、この件で何度も電話をくれ、迅速かつ丁寧に対応してくれました。JASRACさんにしても、あくまで許諾を出す方向で案内を進めてくれました。関係各社に恨みはありません。JASRACさんをはじめとする権利元会社の存在意義も理解しています。闇雲に、文句を言うつもりはさらさらない。

 わかったうえで…ぶちまけていいすか?

⑤想い

 今回の件、残るのは「カムイが楽曲の使用を断念した」と云う事実だけです。それで、誰かの利益になるのでしょうか?たとえ5千円でも一万円でも、使用料が発生したほうが権利者の利益になるのではないか。

 もちろん、不利益になる可能性があるところに簡単に許可は出せないでしょう。しかし、仮に、僕が作る映画の出来がダメダメだったとしても、そこに『黒猫のタンゴ』が使われていたとしても、1969年のイタリアの童謡であり、古典的名作である『黒猫のタンゴ』という曲に、今さら、なにか迷惑がかかる可能性って…どれくらい?

 むしろ、あらためて『黒猫のタンゴ』っていい曲だね?と思う人や、初めて曲を知る人も、きっといるでしょう。それは良い事なはずで。

 YouTubeでいろんなアレンジのヴァージョンを聞きあさっている時、僕はきっと、世界中で最も『黒猫のタンゴ』という曲を愛している人…になっていたでしょう。

 それだけに、本当に残念で、本当に悔しい。

 音楽ってなんだろう?権利ってなんだろう?

 そんなお話。

⑥さて困った

 エンディング曲、どうしよう…。。。