※画像追加:2014年 パンフレットより
その日は朝から、ある特別な想いが胸に去来していた。
半年ぶりの撮影現場。昨年の秋に請けた仕事の残存。ポツンと一日だけ離れて、スケジュールが決まっていた日。
昨年秋にお話をいただきながら、スケジュール含む諸事情で一度はお断りした仕事だったが、後日、「12月と3月に一日ずつ、2日間だけの役なら可能ですか?」と。こっちの勝手な都合を考慮してまで呼んでくれた現場。それも、わざわざ、俺のために役を作ってくれたっぽい。これは嬉しい…。
佐藤監督、キャスティングの吉川事務所さんのご配慮には本当に感謝する他ない。
まず、秋に「来年3月」と聞いた時点で「こりゃ大作だわ」と。撮影は11月にイン→4月始めまでの長丁場。もちろん、日程が長ければ長いほど製作費がかかります。
人件費、弁当代、ロケバスのリース代・ガソリン代、諸経費、すべてが日数分増えていく。当たり前の話ではあるけど、日程が長いほど、そう云った「実際の絵(画面)に写らない部分」にかかる製作費の割合が増えていく、という意味です。
それは、その分「時間をかけて、じっくりと良い絵を撮れる」という意味であり、決して無駄ではなく、シッカリと映画の出来に反映する、非常に恵まれた環境。
いざ現場にいってみて、ちょいと驚き。
地下鉄の車両を2台分、まるまるセットで作ってしまってる!
中は本物の地下鉄そっくり!細かい部分では中吊り広告、すべて架空の雑誌や会社のものをわざわざ制作してある。実在のものを名前の部分だけ変えたのではなく、すべて新規のデザイン。これ、デザイン料だってかかるでしょ。完成した映画の画面ではほとんど判別できないだろうに。
さらに、脚本上、1両目から10両目まで主人公が戦いながら走り抜けるんですが、1両目の撮影が終わる時には車内はグチャグチャになってます。車両2台を使いまわしなので、シーンが次の車両に移る際には、血のりが飛び散った座席のシートを全部張り替えて(!)新たに作り直す。撮影が終わったら、撤去費用だけでもまた、それなりにかかります。
撮影スケジュールも、一日数シーンをじっくりと撮る。
通常の僕らの感覚では「あれ?これ、午前中で終わるんじゃないの?」と思うような予定表で丸一日。
ここはハリウッドか。
や、カネをかけるのが良い映画とは思わないし、僕の思想的にはむしろ逆で、知り合いの監督が個人的に借金をして念願の映画を作ったとか、全員が手弁当で頑張ったとか、
予算の少ないVシネマなど、昔は3週間だった撮影期間が今は一週間で2本撮り、とか。そんな中で皆、必死に頑張ってる。そんな世界で生きてきて、でも、大々的に宣伝されるのはテレビ局支配のお約束映画ばかり。そんな映画界に失望を覚える事もあった。「なんとかザ・ムービーじゃねぇよ。」と。
けど、この、バブル時代にタイムスリップしたような懐かしい贅沢感は、しばし低予算映画の苦しい現場に慣れていた身としては、「このご時世、こんな贅沢な映画が作られているんだ。」と思うと、日本映画界も捨てたものではないと感じるわけです。
それも、なんとかザ・ムービーではなくて。
もちろん、それだけの製作費を集める事のできる大人の事情はあるけど。いつの日か「人気ドラマや、人気漫画の映画化だけでなく、オリジナルでも面白い脚本なら製作費が出る」というマトモな状況に戻り、志ある者が、当然のように(←ここ大事)こんな素晴らしい環境の中でじっくり映画を撮れるような、そんな時代になってほしいと思う。
僕個人は、これでまた、それも大人の事情で、しばらく撮影現場とは離れます。
それが「ある特別な想い」が去来した所以。
その節目の仕事で、この現場を見れたことは良かった。
単純に、バブル時代の撮影現場の感覚を類似体験させてくれて良き時代のノスタルジーに浸れた、という事もあるけど。
「この映画の現場に係ることができて良かった…。」
ほんの少し「日本映画の明るい未来」なんて幻想…もとい、希望!を垣間見た気がした、、そんな現場でしたとさ。