神威杏次 official blog

【俳優・映画監督・脚本家 カムイキョウジのモノローグ】

大人の恋愛小説 「小説版 あらしのよるに」

あらしのよるに」の小説版を読んでみた。

原作者が「決定版」だと言い切るだけあって完成度は高い。

 

ガブ(狼)とメイ(ヤギ)の性別を明言しなかったことは、この作品を奥深いものにした要因のひとつだろうが、この小説版でメイを女性的に描いたことは原作者の明確な意図がありそうだ。

 

僕としては、2人はぜひ異性であってほしい。

なぜなら、僕がホモではないからだ。

食欲と性欲が非常に近い関係にあり同期しているという話は良く聞くが、序盤、メイのお尻をみて興奮するガブの様子は、かなりストレートに性欲を連想させる。

 

ガブとメイはお互いに必死に努力をする。相手を知るために。理解するために。気持ちの流れを必死に読み取る。どうすれば?どう言えば?好かれるのか。

 

自分はこの人が好きだ、うん、間違いない、なぜならば…、と、理由づけをしていく。

ちょっとマインドコントロール気味に。

 

完全に恋愛当初のプロセスやん。

 

出会いが世界を輝かせる。

相手を想うことで、自分が自分でいられる。

もはや恋愛まっしぐら。ほぼ恋愛小説。

ただ、恋愛にしては、いまひとつシックリ来ない部分が残る。

ロミオとジュリエットだといわれる「悲恋」「運命の残酷さ」のせいだと言われてもそうかも知れないと思うが、やはり、執拗に描かれる…ガブのストイックさ。つまり「欲望を必死に我慢する姿」に「何かある」ように見える。

 

物語の本質を理解するには、ガブとメイが異性だとしても、恋愛というよりは友情…「異性の友情」に置き換えてみると、見えてくる世界がまた違うはずだ。

そして、それが、ガブの苦悩を理解する近道のような気がする。

それまたアブノーマルなのだが。

 

それ故に、これはつまり「大人の」恋愛小説なのだ。

 

好きな相手といる限り、ガブはずっと「満たされない」まま。満たしてしまうと、相手が目の前からいなくなる。いなくなってほしくないから必死に我慢する。満たされないまま愛し続けるって…辛い、絶対に辛い。

自己犠牲。無償の愛。

本当の愛とはなにか…。

 

答えらしきものを書いてしまうなら「相手の幸せを願うこと」なのだろう。

 

ただ、そんなこといわれても、そんなもん実践しちゃったら辛くて仕方ないわっ!

愛する人の幸せを願いながらも、自らも満たされるには…どうすればいいのか。その究極の答えが、小説版のエピローグになるのだろう。もう…それしか術はない、そこに行き着く。

 

生きるって辛い。

愛するって切ない。

やはり「あらしのよるに。」は名作だった。