神威杏次 official blog

【俳優・映画監督・脚本家 カムイキョウジのモノローグ】

「ルーツ」と「ミルグラム実験」とハンナの言葉

「残酷な時代があったんだな~」

で済ませちゃいけない。

 そこにあるのは、

現代でも変わらない…

人間の普遍的な性質だから。

 

「ルーツ」を観た。

1977版の再放送と、2016年版の放送の第一回。当時、社会現象にまでなった大ヒット・ドラマ。17世紀~19世紀のアメリカ南部の奴隷制度を描いた衝撃作。 

まるで人間扱いされない奴隷たち。

現在の価値観でみると「有り得ないこと」。

 ただ「有り得ない」と思っている現代の人間が、同じような状況下に置かれた場合、同等の残酷行為をしないと断言できるだろうか。

 現代人と比べて、当時の南部の白人たちが、特に残忍な人種だったかというと、きっとそうではないはずだ。

 彼らも、「背中をムチで打たれたら物凄く痛い」ことも当然知っていたし、他者に対する思いやりや優しさ…それも普通にある、ごく普通の人間だったに違いない。

 じゃ、そんな普通の人たちが、自分と同じ人間の足の先を「二度と逃げないように」と斧で切り落とす…なんてことを平気でできたのは何故でしょうか?

 それは

「そう命じられたから」

「その責任を負わなくても良かったから。」

ただ、その2点。

 これは…恐ろしい。

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 「ミルグラム実験」

「スタンフォード監獄実験」

 長くなるのでここで説明はしませんが、興味ある方は検索してください。

 「人間は、権威に命じられると(そして責任を取らなくていいと保証されると)どんな残虐行為に対しても葛藤やストレスを無視できる」ことを証明した実験。

 ナチスの戦犯、アイヒマンが「実はめっちゃ普通の人」であることに着目したハンナ・アーレントという哲学者は「悪は悪人が作り出すのではなく、思考停止の凡人が作る。」と言った。実際の悪は、悪の根源ではなく、その他大勢の人間の思考停止によって遂行されると。

 どんな状況下に於いても、善悪の思考を停止させちゃいけない。

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 じゃ、「命令した側」はどうだろうか?

 よほどのサディストか狂人でない限り、最初から「人種差別をしたい」「他人に酷い仕打ちをしたい」と考える人は少ない。彼らの動機は「奴隷制」が「利益の最大化」と「労働力の確保」を同時に賄える、またとない手段だった。ただそれだけの理由。

 彼らもまた、普通の人間だ。

 なぜ、そんな命令が出せたかというと、実際に手をくだした人間と同じ。

「その責任を負わなくてよかった」からだ。

 そして、当時は「それが当たり前だった」から。

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 おそらく五十年くらい後になると…、

 現代で普通に行われている事が、奇異にうつったり「ありえない」ことになっているはず。

 生きている鶏のクビをつかんでグルグル回して引きちぎる、とか。

 赤ちゃんアザラシを殴り殺すとか、

 猿に毒を塗りたくって無理やり病気にさせるとか。

 今、人間が「普通にやっていること」も、なんて残酷な時代だったんだ。と言われているかも知れない。

 

そういえば、

ほんの十年前には、駅のホームや飛行機の中で、みんなが一斉にタバコを吸っていたんだ。

男性がタバコを吸うのは「当たり前のこと」だった。世間が味方についたもんで、今になって嫌煙家がガーガー言い出している風潮も、怖い。集団心理的に怖い。

 下手したら、50年後には、喫煙をみつかった者が、市中引き回しの上、ムチを打たれているかも知れない。

 100年後には、人類が普通に食用になっていて、地球の新しい支配者によって、養殖され、牛や豚のようにフツーに食べられているかも知れない。

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「みんながやってるから」

「責任をとらなくていいから」

「それが当たり前だから」

 怖いのは(こと善悪の判断に関しての)個々の思考停止…というお話。