神威杏次 official blog

【俳優・映画監督・脚本家 カムイキョウジのモノローグ】

号泣の聖典『DEVILMAN crybaby』の衝撃【感想】

 僕にとっては聖典なので観ないわけにいきません。

 魂をえぐられたように号泣しました。

 地上波では絶対に放送できない、美樹の「あのシーン」があります。タラちゃんはタロちゃんに名前が変わって、最期は原作から改変されたけど衝撃的に泣けます。「これが人間の正体か」のセリフはカットですが「地獄に堕ちろ、人間ども!」は言ってます。

 半世紀も前の漫画が、SNS、ネットリンチ…現代の私刑社会と見事に符号している。原作改悪もあるけど、今の若い人に響くように作ってあります。

 「デビルマン」のなにが凄いのか…は、充分に表現されている。 

 『DEVILMAN crybaby』
(デビルマン クライベイビー)

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 感想

 小学校低学年の時に読んだ原作漫画「デビルマン」は、僕のその後の人格形成、人生観、世界観、に大きく影響を及ぼしています。

 親や社会に教えられてきた「人間の姿」を根底からくつがえされ、マジョリティだと信じていた自分たちの存在が、地球にとって宇宙にとってはマイノリティそのものだと教えられた。

 森を伐採し、海を汚し、他者の生きる場所を容赦なく排除して地球にのさばる。動物を捕獲し、捕食は仕方ないとしても、見栄や体裁のために生きたまま毛皮を剥ぐ。食物連鎖の流れからも外れ、ただ無意味に殺される動物や植物。

『人間こそが悪魔じゃないか』と誰かが言う。

 『DEVILMAN crybaby』を観た原作ファンが不満を持つのは「人間が悪」の訴えが弱いところ。公園で一部の人間たちが改心するシーンなどは、僕も、最初は「んん~?」と思いました。もっと、とことん描いてくれと感じましたが、全編を観終わった後は「今の時代ならそうなるな。」と思えた。

 昭和40年代の高度成長期と比べて、現代のほうが遥かに闇でドス黒い。だからこそ「いちるの救い」を描く必要がある。それは本当に一縷でしかなく、すぐにブチ壊されていく流れは、それが『デビルマン』だからですが、全編に於いて「人間も捨てたものではない」という人間擁護が満載。全員が悪ではなく、悪もいて善もいる、原作よりリアルになったと思えた。

 美樹が人間たちに追われるきっかけをSNSへの投稿にしたところに感心!

 SNS、ネットリンチ…現代の私刑社会とデビルマンの世界が見事にマッチしている、その親和性の高さたるや。

 原作上の「人間たちによる牧村家惨殺(魔女狩り)」は、まさに現代のネットリンチそのもの。そこを原作通りに描くのではなく、現代にアレンジしてSNSに置き換えたのはファインプレーだと思います。

 美樹がどんなに熱い言葉で語ろうと、真意をくみとる人間はごく一部。大半の人間は、ただ茶化し、ただ決めつけ、悪とみなすと一斉に叩き出す。ただ、愛する人間を救いたいだけの書き込みから、彼女は「悪魔崇拝者」とみなされ惨殺される。

 これが心に響かない人間がどこかにいるのだろうか?

 個人的に「待ちに待った」美樹の最期。そこに行きつくまでの表現がやや好みではなかったですが、さておき、あのシーンをカットせずにやってくれたことに感謝。

 心臓をつかまれたように号泣しました。
 
 タロちゃんが悪魔になり涙を流しながら母親を食う。それを見て銃の引き金をひけない父親の苦悩シーン。あのお父さん、まるっきり「セブン」のブラッド・ピットになってます。

  ミーコが自分のこめかみに銃を突きつけながら「人間であることと、善良であることは…」のセリフ…からの銃声。

 全10話のラスト3話は怒涛の展開。

 全編に於いて「自分たちとは違うもの=異質なもの」として排斥する姿勢が徹底して描かれているハーフである美樹に対する「おら、ガイジン!」なんてセリフも、さりげなくて聞き逃してしまいそうだけど、その【聞き逃してしまいそう】というところがポイントですね。言われた当人だけが強烈に差別意識を感じる。そこに闇がある。

 語りだすとキリがないですが…。

 地球上でたった二人となった(と思われる)アキラとリョウが崖に寝そべるラストシーンそこに降りたつ神(と思われる)。…やや解釈の変更があるものの…最後は原作通りの構図で嬉しい。ここでリョウに涙を流させたことが、物語の救いになっている。

 アキラたち(人類)の執念が、無慈悲なリョウ(悪魔)に、涙という感情を植え付けたということだから。それによって、その後、神によって悪魔も救われるのではないか…と、深読みもできる。明や美樹の戦いは無駄ではなかったと。

 これが地上波で放送されることはまずないと思いますが。

「モノ凄いもの観た」きっとそう思える出来だと思います。

 原作ファンの僕が、残念に思った改変部分ふたつ

  原作ファンとして残念な改変ももちろんあります。特にキモとなる2カ所.

 「理性」の重要度が語られない。

 「悪魔にとって、理性を保った状態の人間との合体は困難。あるいは死を覚悟するほどのリスクを伴う」。この設定が薄まっている。あるいは説明不足なために、1話、明がデビルマンになるまでの過程が、えらく物足りなく感じる。
 
 リスクというのは「そもそも合体に失敗して両者が死んでしまう。」あるいは「意識を人間に乗っ取られてしまう。」ことだと思うのですが、いずれにしろ、悪魔にとっては「死」になる。
 悪魔から見ると、理性が薄まっている状態の人間こそ絶好の狙い目。だからこその「乱交パーティ」だし、アモンがギリギリまで明と合体できなかったのも、明の中に、理性が人一倍強くあったから。最終的にアモンは、明が恐怖のあまり理性を忘れた瞬間を狙って合体に成功します。

 『理性』を介した両者の葛藤が、そのまま悪魔と明たちの戦いとして、原作序盤の大きな見せ場になっている。

 理性を人一倍持っている、正義感の強い明だから、悪魔に取り込まれずに人間の心を持ち続けてくれるだろうと期待し、了は明を選んだ(さらに本当の理由は最後に明かされますが)。理性は、明が主人公である理由そのものでもある。

 そこを軽視したことが「DEVILMAN crybaby」の最大のマイナス点。

 了の「まだ足りない、悪魔は血を好む」のセリフは活かされているので、設定として消しているわけではないのだけど、裏設定っぽく匂うだけなので、原作を知らない人には、おそらく伝わらない。思い切り説明セリフでもいいから、そこはキチンと説明したほうが良かったように思います。「理性」って言葉すら出てこなかったような気がします。記憶が正しければ。

 「理性があるからこそ人間」「理性を失くした人間は悪魔になる」なんて、とてもわかりやすいメタファーだけに、もったいないと思います。

 原作後半には「悪魔が無差別合体を始めた」と云う言い回しが出てくる。無差別合体…つまり、それまでは慎重に合体の機会を伺っていた悪魔たちが、リスクも顧みず、多くの犠牲も覚悟のうえで人間に合体を仕掛ける作戦。無差別合体によって、結果的にデビルマン軍団も増殖していくことになるのだから。味方も増えるが敵も増える。大きなリスクなわけです。そこも、人間の理性が悪魔にとって大きな壁だとの前提がないと、事の重大さが伝わりにくい。

 そこで確実なことは、人類が滅亡に向かうこと。悪魔vs人類、ではなく、悪魔vsデビルマン軍団に戦いがシフトしていく重要なきっかけ。

 原作では1巻で語られている悪魔に関する説明が最終話に移動していますが、あれは、先に明(&観客)に聞かせておくほうがいいような…。

 第1話のうちに明をデビルマンにしたい…というオトナの事情もあったのかも知れませんが、僕は、デビルマン誕生までのストーリーを、2話分くらい使って、もう少し丁寧に描いて欲しかった。

 同じく、もう少し丁寧に…と思うのが、
  「シレーヌとの闘い。」

 原作でシレーヌが「私は勇者アモンに、いや、デビルマンに勝てるだろうか…。」と自問自答するモノローグがあります。めっちゃ不安なのです、アモンと戦うのが。

 その前フリがあるから、デビルマンに片翼をもぎ取られた時の恐怖の表情を経て、カイムの想い、勝利を確信した満足気な死に顔。…らが、より強烈に響いてくるのです。

 そこら、丸々カットが寂しかった。

 僕としては、陸上テレビ中継のくだりやラップの尺を削ってでも、もう少しジックリ見せてほしかった。なにしろシレーヌというキャラは「デビルマン」の中に欠かせない、いわばドル箱スターなのだから。

 もちろん、そんなシレーヌを人間体でも登場させて、かつ、めちゃくちゃエロい設定にしたのは拍手でございます。それだけに余計、最後が…。

 もろもろの新要素…「走ること」「バトンを渡すこと」「涙の継承」などに不満はありません。新しく追加するのは問題ないのです。現代に合わせて設定を差し替えるのも、全然いいのです。

 ただ、良い部分が削られる事には、少しばかり敏感になるのです。原作フェチオヤジの個人的意見のコーナーでした。

 まったく余談ですが、「あばしり一家 THE MOVIE」という映画で、あばしり直次郎を演じさせていただき、試写会で永井先生とお会いできました。永井先生原作の作品に出れるだけで嬉しいのに、ご本人とお会いできるなんて。あまりの感激に、ろくにしゃべれず。遠慮してしまいツーショット写真をお願いしなかったことをいまだに強く後悔しています。

 全話ネタバレあらすじ(映画ブログ「カムシネマ」へ)

▼映画ブログに全話のネタバレあらすじを載せました。

▼デビルマンとはまったく関係はございませんが、当ブログ著者・神威杏次の監督映画(自主制作の短編)と、上映会のご案内です。すいません、宣伝です。

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