今の部屋に来て一年が過ぎた。
昨年の11月まで7年間過ごした賃貸マンションの部屋は気に入っていたのだが、耐震基準と区の開発に係る問題で取り壊しが決まり、やむなく今の部屋に引っ越した。
十九で東京に出てきてから、今の部屋で六つ目となる。過去の五つの部屋は、当然、それぞれに思い入れがある。
その時、誰と、どうやって過ごしていたか…部屋への愛着は自分自身の思い出と連動する。それはわかりやすい話として…どうも、それ以外にもなにかある。
人間の「住処(すみか)」への想いって…なんなんだろう、あれ。
昔からの地元である世田谷の三軒茶屋や三宿で仲間と飲んだ後、外の空気が心地よい夏の夜には、時折2時間くらいかけて歩いて帰っていた。その道中、七年過ごしたマンションの前を通る。取り壊しが進んでいた。
外壁を残して中をえぐられたような状態の四階建ての建物。まさに自分が住んでいた三階の部屋の見慣れた壁が、外に剥き出しになっていた。
思いのほか、ショックだった。
しばらくその場に座り込んだ。
まるで、自分の七年間をえぐり取られたような、そんな錯覚に涙が出た。
あの時、去来した想いはどう表現すべきか。
「猿の惑星」でチャールストン・ヘストンが朽ち果てた自由の女神を目のあたりにした時の心境?ちょっと違う?わからん。
「引き返すには遠い…。」
セリフにするとそんなところ。
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いつのまにかクリスマス・ソングが流れていた。
この時期が嫌いなのではない。むしろ好きなのだけど、なぜか切なくなるのは、そこを走り抜けた後に…1月を迎えるのが大嫌いだからだ。
まぁいい、さぁ、走り抜けよう。