神威杏次 official blog

【俳優・脚本・演出家 カムイキョウジのモノローグ】主に、好きな映画の話に絡めて、神威が意味不明なことを書いているブログ。◆映画の話はネタバレご注意◆

10回のうち1回の法則と、実はひどい話な映画『卒業』

 10回のうち1回、良い事があれば、人間は生きていける。
9回のキツさを吹き飛ばすほどの1回である必要はあるけども。
 必要なのは「9」を受け入れる覚悟と、「1」がとてつもなく大きい「1」であると気づくこと。
 実際はもう少し多いでしょう、良い事も。ただ、そんな割合は重要ではなく、10回のうち8回も2回も同じこと。
 要は、決して「0」にしないこと。

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『卒業』1967

▲なんとなくダイジェストになってます

結婚式での花嫁強奪シーンで有名なアレですが、この映画、かなり珍しいんです。

なにが珍しいかというと、こんなに有名で名作と言われている映画なのに、未見の人が想像する内容とは180度違う「ひどい話」だという点。

大抵の人が想像する「純愛感動ストーリー」とは程遠い内容なんですね。

それでも、だけどやっぱり不朽の名作だ、という着地に持っていきますが…。

概要
・主人公ベンは、金持ちの息子
・大学を出ても就職せず親のスネをかじっている。
・幼なじみの娘の母親と寝て童貞を捨てる。
・童貞を捨てるなりサングラスをかけて恰好つける。
・娘のエレーンが家に戻ってくる。
・娘を好きになる。
・僕は君の母とヤリまくってますが、ところで結婚してください、と言う。
・娘キレる。
・ベン、ストーカーになる。
・相変わらず高級車を乗り回してる。
・すべてを知ってやってきた怒り心頭の父親に謝りもせず「娘さんと結婚します」と平気で言う。
・娘、他の男と婚約する。
・式場に乗り込む。
・ベン「エレーン!」
・エレーン「ベーン!」(なんでや)
・暴れる。
・二人でバスに乗って逃げる。
・めっちゃ不安そうな顔してる。

以上、ひどいです。
バカですか。

◆ベン
完全な自己中。自分以外の人間をまったく重要視していない。エレーンに対しても同じ。
◆エレーン
ベンを好きになる理由が皆無。「恋してる感じの自分が好き」なだけ。ただのバカにしか見えない。
◆母親
ベンと不倫を続けながら、ベンのことをまったく好きでないばかりか、むしろ軽蔑している。すでに愛情のない旦那のかわりに満たしているだけ。「娘と会わないで」というのもヤキモチではなく「娘とこんな頼りない男を結婚させたくない」から。

つまり全員が自分勝手で無茶苦茶なんですね。
観客は、二人がこの後普通に幸せになるとは誰も思わないはず。

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しかし…僕らも、特に若い頃は少なからず自分勝手なものでした。なにせ自分の将来が不安だから。それどころじゃないんです。

他人にひどいこと言うし、運命のひとと出会えていても「他にもっとイイひとか現れれるかも知れない」なんて思うのです。そうそう現れないんです。

そんな、若気のいたり、不安、焦り、人間の愚かさをストレートに描いているから、誰もが持っている黒歴史…もとい郷愁をくすぐるから、やっぱり『卒業』は不朽の名作と言われる。

バスに乗って逃げるラストシーン。

式場からの強奪という「一瞬の輝き」のすぐ後ろには、おそらく前途多難であろう「現実」がすでに追いかけてきていること。二人もそれに気づきながら、走り出してしまった不安に襲われている…。

無言なのに、いろんなことがビシバシと伝わってくる名シーンです。これぞ映画。

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それでも、これから二人を待ち受ける「9」の出来事に対して、情熱に突き動かされた共有体験、共犯体験は大きい「1」。

その「1」を大事に思える日がくれば、二人は生きていける。いずれとてつもなく大きい「1」にもできるかも知れない。

ベンを誘惑した母親にしても、人生が危うく「0」になりそうな危機感から、死にモノ狂いで「1」を作ろうとしたのかも知れません。

「10のうち0」になってしまうと、人間は壊れてしまう。みんなそれを知っているから。誰になんと言われようと「1」を掴もうとする。

人間って意外に強い。
そして変わることができる。


決して「0」にさえしなければ。

 

 

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